【労務管理の落とし穴】 「直行直帰=みなし労働」は通用しない?

「うちはみなしでOK」の落とし穴
「外回りが多いから、みなし労働にしてるよ」
「直行直帰だし、細かく勤怠を取ってないんだよね」
こうした声、現場ではよく聞きます。
実際に、営業や巡回業務などで事業場外での勤務が中心というケースは珍しくありません。
でもちょっと待ってください。
その運用、本当に法律に合っていますか?
令和6年4月、最高裁で注目の判決が出ました。
いったん「みなし労働時間制」が適用されていた働き方について、「労働時間を算定し難いとは言えない」として、制度の適用が否定されたのです。
本記事では、この「協同組合グロース事件 (最三小判令和6.4.16労判1309号5頁)」をもとに、
中小企業が見落としがちな制度のリスクを解説します。
「労働時間を算定し難いとき」って、どんなとき?
まずは基本から確認しましょう。
労働基準法第38条の2には、こう書かれています。
「事業場外で労働し、労働時間の算定が困難な場合には、所定労働時間を働いたものとみなす」
つまり、外回りなどで勤務時間が正確に測れないときは、「所定時間働いた」とみなしてよい、という制度です。
これがいわゆる事業場外みなし労働時間制。
一見便利な制度ですが、誤解されやすいポイントがあります。
たとえば、「社外にいるから時間の把握はムリ」という理由だけでは、この制度は使えません。
なぜなら――
実際には“ある程度”勤務状況が把握できるケースが多いからです。
グロース事件で何が問題になったのか?
では、具体的に見ていきましょう。
この事件では、外国人技能実習制度の指導員として働くX氏が、九州各地を訪問していました。
彼は直行直帰が基本で、スケジュールも自分で調整。勤務時間は日報で報告する形でした。
「外に出ていて、自由に動いている」
一見すると、まさに「算定し難い」働き方に見えますよね。
ところが、最高裁はこう判断しました。
企業はX氏に随時指示はしていないが、
業務日報で報告があり、行動を把握できていた
つまり、「算定は不可能ではなかった」
その結果、「みなし労働時間制は適用できない」という結論に至ったのです。
似ているようで違う?阪急トラベル事件との比較
以前にも、「みなし労働時間制」が認められなかった有名な判例があります。
それが、「阪急トラベルサポート事件」です。
このとき問題となったのは、旅行添乗員の働き方でした。
あらかじめ決められたツアー日程に沿って行動し、報告内容も会社がしっかりチェックできる体制だったため、「労働時間を算定するのは難しくない」とされ、みなし労働時間制は適用されませんでした。
では、今回のグロース事件はどうだったのか。
一見すると、直行直帰で自由に動けるように見えますが――
実際には、指導員が提出する日報やスケジュールの管理方法などから、会社側がある程度、勤務状況を把握できていたと判断されました。
つまり、どちらのケースも「外にいる=把握できない」とは限らない、という点で共通しています。
そして、制度が認められるかどうかは、その“把握の程度”によって決まるのです。
判例名 | 労働時間の把握 | 日報の精度 | 指示の頻度 |
|---|---|---|---|
阪急事件 | ツアー日程で把握可能 | 内容精査可能 | 適宜あり |
グロース事件 | 日報はあるが精度に難あり | 精査困難 | ほぼなし |
チェックしておきたい3つのポイント
制度を使う前に、次の3点を見直してみてください。
✅ 労働時間は本当に把握できない?
GPSやチャットツールで実は動きが見えていませんか?
報告や指示がリアルタイムで行われていませんか?
✅ 日報の中身に「客観性」はある?
記録の正確性を裏付ける証拠(訪問記録・履歴など)は?
実態との乖離が出ていませんか?
✅ スケジュール管理は誰がしている?
労働者本人が自由に決めている?
それとも、会社があらかじめ細かく決めていませんか?
見直すなら「今」がチャンスです
「現場の実態」に合わせた制度運用をしている会社は、実はそう多くありません。
表面上「直行直帰だからみなし」という運用は、リスクの温床になります。
特に最近は、判例のスタンスが明確に変わりつつあります。
“なんとなく”の制度運用は、いつか高額な未払い残業代という形で跳ね返ってくるかもしれません。
制度は、守ってこそ味方になる
事業場外みなし労働時間制は、便利な制度です。
ですが、適切に使わなければ、企業にとって逆風となることもあります。
今回のグロース事件は、「みなし労働」が万能ではないことを改めて教えてくれました。
「うちの制度、もしかして…?」と感じたら、
どうか一度ご相談ください。
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